練馬区では、昭和五三年四月、区独立三〇周年記念事業の一環として新たに区史の編さん事業をおこすことになった。この検討の段階で前回の区史編さんの縁から滝口・松下が相談にあずかることになった。
同年八月「練馬区史編さん協議会」の第一回会合が開かれ、『歴史編』『現勢編』『現勢資料編』全三巻の発刊が決定した。これは、昭和三二年刊行の区史に続くものとしての『現勢編』に重点を置くことにあったが、前区史発行以来既に二〇年、現在では前区史を入手することが困難になっているので、通史編を加えるということになったものである。
さらに『現勢編』の構成を二巻とし、一つは区独立以後の経過と現在を叙述することにし、他の一巻は、現勢資料に年表を合わせ、資料的意義を盛り込むことにしたのである。後者は、今日盛んになってきた地域の歴史の研究上その中心になる公文書が、その膨大な量であるため、時に十分な整理をされずに格納され又消滅して了うことがある。公文書館運動はこれを防ぎ資料の万全を期すために各地で文書の収集・格納・整理を行なう組織・施設の網を張ろうというものである。この趣旨に添う目的で、この『現勢資料編』編集に踏切ったのである。練馬地区は、かつての東京市郊外から発展し板橋地区と合して板橋区となり、更に強力な分離独立運動により悲願を達して練馬区として成立した地区である。しかも独立後の三〇年、人口の急速な増加、土地利用の変遷を重ねて今日の隆栄を来している。この特異な姿を確実な資料に基いて叙述し、併せて原資料を記録に留めようという計画を樹てたのである。
この計画を理解し快くその推進方を取計らわれた田畑健介区長、三浦忠正助役(区史編さん協議会会長)はじめ区側のかたがた、区議会議員諸氏に厚く感謝するものである。殊に本田久夫総務課長(現環境建築部長)とは二〇年前区史編さんの折にも直接担当されたので久し振りの共同作業であり、感無量のものがあった。また、のちに専門調査員とな
った福井豊麿(元練馬図書館長)氏も、当初から編さん室員として、区側との橋渡し役となって種々ご苦労願ったことにあわせて感謝するものである。刊行の順は、先ず『現勢資料編』をまとめ、次にこれを基にして叙述する『現勢編』、この間、島野氏を中心として江戸時代の練馬の解明をお願いすることにした。これは『歴史編』の準備である。区当局の意向として示された編さん概要は、区独立前後の記録が不十分であるので補完し、独立史としてまとめること、また独立後三〇年余の区民生活の経緯を、社会・経済・産業・交通・文教など各分野にわたり区民サイドからとらえて述べること、さらに前区史が既に入手困難になっているので通史として再編集すること、などであった。
翌五四年五月には、各執筆分担も決り、刊行に向けて急いだ。記述に当っては、高校生が十分理解できる程度とし、区民諸氏に親しみやすい内容であることに努めることにした。また、区民諸氏の紙上参加も考え、「ねりま区報」を通して広く材料提供と協力をお願いすることにした。他方、練馬区役所々轄の部課係の諸氏の積極的な協力、さらには関係各官公署、企業体などの協力も戴くことができたのであった。
こうして編さん事業が始まり進行したのであったが、先ず手がけた『現勢資料編』で多くの日時をとられることになった。それは収集された資料が膨大な量に達し、しかも精粗さまざまであり、過去の事実に対する資料としての適否から始めなければならなかった。殊に一事実に対する複数資料の内容の衝突などもあり、時日数字の相違から検討し直すなど、資料内容そのものを訂正する作業まではいり、当初の一年間はこれらのために使われてしまった。
区としての編さん事業計画は、昭和五六年度をもって全巻刊行の予定であったものが、この出発時の混迷のため、心ならずも延引してしまった。この間、滝口が不慮の災厄の為一時指揮を松下に代行して貰うなどの事態も重なったのであるが、区長、会長(助役)はじめ区史編さん協議会・区議会・区所管各位の終始かわらぬ理解とご厚情を示された。これには編さん室一同深く感謝するところである。
この間、事業経過に述べるように区側の異動と専門調査員・同補助員にも異動があり、さらに原稿の遅れから、昭和五六年度にはまだ『歴史編』の原稿が脱稿した段階であるため、区にお願いして編さん室の実体は残し、室自体は
閉鎖することにした。総務部の厚意により、その一部を割いて戴き、北沢を専任者として残し提出原稿の再整理、印刷所との折衝に当って貰うことにした。この区側の措置は、筆者らにとって深く感謝するものであり、北沢は編さん事業を通し資料収集整理執筆の傍ら庶務事項の処理を続けて来たので、適任者として引続いて残務を担当して貰うことにしたのである。
『現勢編』については、区側現職のかたがたのお力を借り、執筆までお願いした。これは行財政・区施策など直接当面されたかたがたが事情に精通しておられるからであって、この趣旨を良く理解して戴き適切有効な力作をお寄せ下さり、区史に華を添えたばかりでなく、内容をより正確なものにすることができたのである。
『歴史編』についても、長い間の区内でのご研究を別記するかたがたにお願いし、貴重な原稿を執筆戴いている。そのすべてを紙面の統一や紙幅の関係で、掲載できなかったのは申し訳なく存じており、改めてお礼とお詫びを申し上げたい。
編さんにあたって資料提供や記述について、協力と教示をいただいた方々は次のとおりである。ここに記して厚く御礼申すものである。
練馬区史の編さんをはじめてから区側担当者として長く尽力いただいた飯田興一前総務部長・山澤道方総務部長・本田久夫環境建築部長・平野雅雄教育委員会事務局次長・渡辺日夫総務課長、業者折衝その他編さん進行に尽力して戴いた石田藤男総務係長をはじめ関係職員に深く感謝の意を表するものである。
また、『現勢資料編』『現勢編』『歴史編』の印刷を最新の技術と誠意をもってあたられた大日本印刷株式会社、ことに担当の代田龍男氏、石毛一幸氏に心より感謝申し上げるものである。
昭和五七年一一月 主任編さん委員
『歴史編』執筆分担
『現勢編』執筆分担
編 集 滝口 宏・松下正已・北沢邦彦
ご協力を戴いた方がた
(団体)