Chus2-1039-000-a

2005

2　湊學氏所蔵秋田湊文書

1039

野村平左衛門書状（野村平左衛門「秋田氏由緒聞書」湊金左衛門宛）

191下～195下

秋田様御先祖及承候通御物語申上候様ニと被仰下候、誠某式之者申上候儀、憚至極ニ奉存候得とも、任御意、及承候通申上候、御覧之上、火中奉頼候、
一、御先祖者、丹波國生駒嶽麓神代ゟより御在城被成、安日長髄と申奉る、天神七代過、地神二代目まて年久敷日本を守護し給ふ由、然ニ葺不合尊第四ノ御子神武天皇、天照大神ゟより御ゆつりを得給ひ、淡路嶋江御出、それより摂州エ着せ給ハんとし給ふ時、安日防戦給ひて入す、就之年月送、合戦に一事なく、終ニ安日うち負給ひ、奥州エ落下給ひて、是ゟ御代々東奥ニ御隠被成、御子孫奥州を御知行被成候と承傳申候、
一、安日長髄末孫安倍頼時と申奉る、安日殿共申候よし、其御子安倍貞任、王道を御背被成候ニ付、依勅定源頼義討手ニ御下り、年を重御合戦ニて、頼時衣河館ニて討死被成候、御子貞任ならひなき強將ニ御座候故、（源）頼義・（源）義家又年月送御合戦被成候、然者貞任之御運ものかれかたく、栗谷河（岩手郡厨川）と申城ニて康平五年九月討死被成候由、御器量人間ニかわり申候由、貞任之御惣領十三（歳脱）ニて御合戦討死被成候由、宗任ハ降人ニ御成候て、筑司（筑紫）江被流御申之由、此間之弓矢九年と申候、宗任之御子孫ハ松浦肥前守殿と申傳候、（秋田）實季公御物語被遊候ハ、松浦殿ハ宗任之末孫と申候得とも、終ニ不被仰合候へハ、けいつ（系図）なと御所持被成候も不存候由、御ものかたり被成置候を承候事、
一、安倍貞任討死被成、二男三歳ニ被為成候を御乳人何かしと哉らんいたき奉り厨川城よりしのび出、津輕十三湊へ落行、是ニ而もりたて申、御代々被成御座候由、此間何代ニ而御座候哉、是も承不申候、中興開山と申奉るハ（下国）安倍康季公・彼（鹿）季公之御事ニ候、武勇すくれたる御兄弟ニ御座候、其頃夷賊日本をとらんとて稞（夥）敷蜂起致、國々をさわかし候由、康季公・鹿季公討出下地し給ヘハ、恐て逃散事度々之由、夷切ての不類之旨都ニかくれなく、禁中ニも被聞召、北國之関々迄被仰付候と也、此時ゟ都ニもをち給ふと申也、然に康季・鹿季ニ□夷賊恐てすゝみ得さるの由、内裏ニ被聞召御感不斜、則院宣を下給、康季・鹿季御悦ありて、弥夷賊を御誅罰被成、奥刕しつまり申候、依之康季御參内候ヘハ、勅定ニハ夷狄さしたかへ申事何ゟより以御感也、先祖ニおゐて神武天皇へ大敵をなし申、今の世ニ至迄代々勅勘身なれとも、康季・鹿季御免被下、扨此度之武功ニよつて日下將軍を被下、弥夷狄を志たかへ申せとの勅定之由、其時、松前へ夷おさへのため柿（蠣）崎信濃と申二三番通之御家老を被遣候、今之松前殿御先祖に御座候、御直御奉公ハ高麗陣之時、肥前之名古（護）屋迄太閤（豊臣秀吉）様御馬御出候時、御鷹を持参被罷上候、此時ゟより御直御奉公ニ御成候由、近キ御事ニ御座候、其前ハ御先祖秋田様御家老ニ而御座候、
一、（下国）康季公ハ（出羽国檜山）檜山之御城ニ被成御座候由、
一、彼季（湊鹿季）公ハ小鹿（小鹿島）と湊（秋田湊）の御城ニ御座候、彼季公ハ大力に御座候、龍かさかり通り候を湊の御城より御射落被成候と申傳候、篦ハ笛竹程、根ハ大工之鑿よりは大キニ御座候由、（秋田）実季公度々御咄被遊候を承候、
一、湊之御城主彼季公之御跡、御代々御早世被遊、然に（下国）太郎愛季公の御舎弟九郎重季公湊ヲ御継被遊候へとも、是も御早世被成置候、依之湊殿之御一門御家老中、愛季公へ被申候ハ、湊之御城主数代下國より御継候へとも御早世之上ハ、湊之滅亡と見得申候間、愛季公両家を御次（継）可然と被申候ニ付是ゟより両家を愛季公御つ（継）き、小鹿と下國乃御家はひとつニ罷成候、愛季湊城江御移被成候由、
一、実季公御物語ニハ、彼季公の遊したる矢五拾本湊之御城ニ御座候、前ニも書申すことく、篦ハ笛竹程、根ハ大工之のミほと也、此矢賣て一筋残り候ハ、人にも見せ度もの也、今かたれは偽ニ似り、昔之能登守乗經（平教経）の矢も是程ニハ有間舗かと御物語ニ候、此矢うせ申候子細長ものかたりニ候へとも、有増書付申候、実季公十二ノ御年、愛季公御他界、其折節南部殿と御取詰之由、然間御他界ノ事深く御隠し被成、御膳番衆其外之御近習衆計御存、廿日御かくし候由、其内南部扱ニ罷成而後、愛季公他界上下ニしらせ候、昔召つかいの者共ハかくせといへば沙汰せざる也、今時之者共ハかくせといへばいよ々々人にかたるなり、御一代之内是程ちかい候と被仰候、其節、御一門之九郎（通季）殿、実季と御合戦之時、湊之御城を御のけ候切、指火を被成檜山へ御落被成候、其時御代々御傳りの者とも、鹿季公之御矢も皆焼失申候と御ものかたり被成候を承候事、
一、實季公ハ天正四丙子ノ御生レ、御法名凍引（蚓）、後ニ宗実、此宗実ハ南光僧正様之御付被成候、御年八拾四ニて御他界、御道号
高乾院殿前勅拾遺空巖梁空大居士、
　　　万治二<wari 己亥>霜月廿九日、

[註] 資料番号216。「秋田氏由緒聞書」と仮称して利用されている史料である。野村平左衛門の素性は未詳であるが、大館住人といい、 伊勢国朝熊蟄居中の秋田実季入道宗実を訪れて宗実から直接に話を聞いた人物として伝えられている。